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高温ガス炉による水素製造

三菱重工業株式会社

概要

高温ガス炉は、炉心溶融を起こさない固有の安全性と、900℃以上の核熱利用を特徴としており、従来の発電用途だけでなく、安定供給可能なカーボンフリー高温熱源としての活用が可能である。
国は、脱炭素化に向けて2050年までに80%の温室効果ガス排出削減という長期的目標を掲げており、その実現には電力分野だけではなく、産業分野の製品製造プロセスで排出されるCO2を抑制する必要がある。例えば、鉄鋼業界においてはコークスに代わり水素を還元剤として用いた製鉄技術の導入により、脱炭素化を目指した取り組みが進められているが、将来の「ゼロカーボンスチール」の実現には大規模かつ経済的な水素の供給が必須とされている。
当社は、高温ガス炉の高温熱源を利用した大量、安価かつ安定的な水素製造と、高効率な発電を両立するコジェネプラントの開発を推進し、鉄鋼業界をはじめ多様な産業分野におけるネット・ゼロに向けたイノベーションの実現に貢献する。

説明

高温ガス炉は、化学的に安定なヘリウムガスを冷却材として用い、燃料、炉心構造の材質に耐熱性の高いセラミックや黒鉛を使用しているため、万一の事故時においても、炉心溶融を起こすことはなく、最終的には熱放射と自然対流により原子炉の冷却が可能であるといった優れた安全性と、従来の軽水炉と比較してはるかに高い900℃以上の熱利用が可能であるという特徴を有する。

国は、脱炭素化に向けて2050年までに80%の温室効果ガス排出削減という長期的目標を掲げており、その実現には電力分野だけではなく、産業分野の製品製造プロセスで排出されるCO2を抑制する必要がある。例えば、日本の鉄鋼業界では、『ゼロカーボンスチールへの挑戦』とした長期温暖化対策ビジョン(日本鉄鋼連盟、2018年11月)を掲げ、脱炭素化に向けた取り組みを進めている。現在、2030年代の実用化に向けて進められる「革新的製鉄プロセス技術開発(COURSE50)」に続き、さらにその先の将来、ゼロカーボンを実現するための超革新的技術として水素還元製鉄への転換を目標として掲げる。将来の水素還元製鉄の実用化に向けては、大量、安価かつ安定的な水素供給が必須とされており、原子力による水素供給に対する期待も示されている。

これまで原子力エネルギー利用は概ね発電に限られており、非電力分野への利用は狭い範囲に留まっている。今後、脱炭素化の実現に向けて運転時にCO2を排出しない原子力エネルギーの多方面での利用が期待されており、エネルギー基本計画においても原子力エネルギーの多目的利用に向けたイノベーションの重要性が謳われている。高温ガス炉は、固有の安全性を有し、発電にとどまらず高温熱源が供給可能であるという特徴から、広く産業分野で多目的な利用への展開が可能である。当社では、鉄鋼業界をはじめとした将来の水素ニーズに注目して、大量、安価かつ安定的な水素製造と高効率な発電を両立する高温ガス炉コジェネプラントの開発を推進し、多様な産業分野におけるネット・ゼロに向けたイノベーションの実現に貢献する。

日本の高温ガス炉開発は、日本原子力研究開発機構(JAEA)の高温工学試験研究炉HTTR(High Temperature engineering Test Reactor)建設と実証運転を通じて、技術の確立と実証が進められてきた。このHTTRでは、世界で初めて水素製造に利用可能な高温核熱を供給可能であることを実証してきた。当社は、JAEAのHTTR建設プロジェクトにおける国内メーカの主幹企業としての役割を担い、高温ガス炉開発に係る技術・経験を蓄積してきた。この実績をもとに、経済性・機動性に優れ、脱炭素化、水素社会といった将来の多様な社会ニーズに応える革新技術である高温ガス炉コジェネプラントの開発を進める。

安全性の面では、HTTRで実証してきた固有の安全性をベースに、原子炉出力をスケールアップした実用高温ガス炉の確立に向けた技術開発を行う。例えば、原子炉冷却材の喪失や制御棒が挿入されないといった過酷な事故が発生した場合においても、炉心は自然に安定な状態に静定する固有の安全性を実現すべく、当社独自の燃料・炉心設計、構造検討を行い、解析により安全性を検証する。

経済性の面では、1次系の冷却材を用いたシンプルな直接ヘリウムガスタービンサイクルの採用、超高温による高効率発電、固有の安全性に基づく安全システムの簡素化・最適化、モジュール化による現地工事低減と建設費圧縮などにより、高い発電効率を確保しながら、核熱利用による安価な水素製造を達成することを目指す。また、水素需要や発電の変動に合わせて発電量/水素製造量のバランスをとり、原子炉出力を一定に維持することによって原子炉の稼働率を維持するといった、需要変動に対応する機動性に優れた高温ガス炉コジェネプラントを実現する。

当社は、高温ガス炉コジェネプラントの実用化に向けて、水素還元製鉄への転換を目指す鉄鋼業界のユーザなどとの連携も視野に、国の政策の下で進められる脱炭素化、水素社会の実現に向けたイノベーションといった産業界の取り組みと協調を図りつつ、技術開発を推進していく。

連携先

鉄鋼メーカ、日本原子力研究開発機構(JAEA)他

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