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SMR開発(発電用、船舶用)

三菱重工業株式会社

概要

現在、世界各国で稼働している原子力発電プラントは、大規模集中型のベースロード電源として経済性を考慮した100万kWeクラス以上が主流となっているが、概ね30万kWe以下の小型炉(SMR;Small Modular Reactor)では、小規模グリッド地域向けのカーボンフリー電源だけでなく、離島・島しょ地域や被災地向けの長期間安定なモバイル電源としてのニーズが期待できる。
当社では、これまでにも小型炉の開発を実施してきたが、さらに将来に向けた新たな取り組みとして、実証性の高い加圧水型軽水炉(PWR)の特性を活かしつつ、小型炉として固有の安全性を高めたSMRに加えて、より幅広い用途への適用を考慮して船舶搭載が可能なさらに小型のSMR開発に着手している。小規模グリット向けの発電炉にとどまらず、多目的なモバイル運用を可能とする船舶搭載炉への展開も見据えて、2040年代の実用化を目指す。

説明

近年、米国やカナダ、英国などにおいてSMR(Small Modular Reactor)の開発、導入に向けた動きが活発化している。SMRは、一般に、①出力規模が小さいことによる固有の安全性と、それを前提とした事故時に原子炉を冷却するための安全システムの簡素化や、②モジュール設計の採用により工場での製作を可能とし、それに伴う現地建設工事の短縮などが特長とされる。SMRは、概ね30万kWe以下の小出力規模であるため、従来主流である中大型の原子力発電プラントとは異なり、主に新興国や非送電網地域など小規模グリッドにおけるカーボンフリーのベースロード電源としての実用化が期待されている。さらには、離島・島しょ地域や被災地向けの長期間安定なモバイル電源としてのニーズが期待できる。
当社は、これまでに加圧水型軽水炉(PWR)の安全性・信頼性向上や長期継続利用に向けた技術開発に取り組むとともに、SMRをはじめとした多様な革新的原子力技術開発に取り組んできた。当社の軽水小型炉開発は、原子力船「むつ」(1967年~1972年;日本原子力船開発事業団)の原子炉開発に始まり、近年では小型一体型モジュラー炉の開発などの開発知見を蓄積してきた。当社は、実績あるPWRの特性を最大限に活かしつつ、小型炉特有の安全設計やモジュール設計などを用途に応じて反映することにより、小規模グリッド電源としての発電炉だけでなく、離島・島しょ地域などの極小グリッド向電源や災害地域への一時電源供給、舶用動力などのニーズにも対応するモバイル利用も可能な船舶搭載炉としての展開も見据えた革新的な軽水小型炉を提案する。
日本国内においても、第5次エネルギー基本計画(2018年7月閣議決定)において、原子力は将来に亘るベースロード電源として位置づけられ、実用段階にある脱炭素化の選択肢として期待や「多様な社会的要請の高まりも見据えた原子力関連技術のイノベーションの促進」という方針が示されている。また、これを受けて2019年度から、経済産業省では原子力イノベーション促進(NEXIP)のための技術開発を支援する補助事業が開始された。当社は、国の補助事業の枠組みの下で、2040年代の実用化を目指して、将来の多様な社会ニーズに応える多目的軽水小型炉の開発を推進する。
発電炉、船舶搭載炉の共通コンセプトとして、従来PWRの一次冷却材ループ(大口径配管)および一次系の主要な機器(蒸気発生器や一次冷却材ポンプ、加圧器など)を原子炉容器内に統合する一体型原子炉を採用し、一次冷却材配管が破断することに伴う冷却材の喪失などの事故発生リスクを原理的に排除するとともに、出力が小さい小型炉の特性を生かした事故の静定、原子炉の冷却を可能とする安全対策を取入れることで安全性・信頼性に優れた軽水小型炉を確立する。また、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえて新たに制定された日本の新規制基準への適合性の観点において、国内既設プラントの再稼働支援での実績も踏まえつつ、厳しい耐震要求や、津波・竜巻等の自然災害(外部ハザード)対策、テロ・航空機衝突への対策などについても設計に反映し、海外競合炉を凌ぐ安全性の実現を目指す。さらに、安全性を確保した上で可能な限りシンプルなシステム構成、設備設計を採用することで格納容器を小型化し、最新技術を適用したモジュール設計、先進的な建設工法の採用などによる建設合理化・工期短縮などにより、大幅な建設コスト低減を実現する。
モバイル運用を見据えた船舶搭載炉は、発電炉よりもさらに一回り小さい出力規模の炉心としており、原子炉容器の大幅な小型化を実現して、船舶搭載を可能とする。また、原子炉内の冷却材を加圧することで原子炉容器内に気液界面なく運転が可能であるPWRの特性を活かして海上運用に特有の搖動/傾斜などを想定した環境条件においても安定して運転が可能な設計とする。さらに、モバイル電源としての運用性を最大化すべく、大規模な設備交換や保守・メンテナンスの最少化、長期間燃料交換不要化などを実現するための技術開発にも取り組む。
これにより、小規模グリットや非送電網地域での発電利用のみならず、船舶搭載炉としてモバイル運用が可能な電源、舶用動力などとしての利用も見据えた軽水小型炉を開発し、将来の多様なニーズ、用途に対してカーボンフリーな原子力エネルギーを提供していくことで、幅広くネット・ゼロ社会の実現に貢献していく。

連携先

国内電気事業者、大学、日本原子力研究開発機構(JAEA)など

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