高炉還元製鉄における水素を活用したCO2排出削減技術の開発
日本製鉄株式会社
概要
・ 現在、製鉄所からのCO2排出量を削減するための国家プロジェクト「環境調和型プロセス技術開発/水素還元等プロセス技術開発(COURSE50)」が高炉メーカ4社とエンジニアリング会社1社を含む5社で進められ、CO2分離回収による排出CO2量20%削減技術と、高炉製鉄への水素の活用による排出CO2量10%削減技術を併用して、トータル30%のCO2削減を目指している。
・ 後者は、所内で発生する水素系ガス(コークス炉ガス)を用いて、高炉の炭素による還元(酸化鉄から酸素を取り除いて鉄にする反応過程)の一部を水素による還元に置き換えて、高炉からのCO2排出量を削減する技術開発であるが、COURSE50における高炉からのCO2排出削減目標10%を完遂し、さらに製鉄所外部の水素系ガスを多量活用して、水素による還元を飛躍的に高めることで、10%以上の大幅なCO2削減を目指した技術開発にチャレンジする(鉄連長期目標のSuper COURSE50に相当)。
説明
a)チャレンジにおける到達目標
・ 高炉法のCO2排出原単位を大幅に削減し、CO2分離回収技術と組み合わせて、現行高炉法に対して30%を大幅に上回るCO2排出量の低減が可能な技術を確立すること
b)チャレンジ実現に向けて克服すべき課題
・ 特に鉄鋼業が排出するCO2の約7割は高炉を用いた銑鉄製造(酸化鉄である鉄鉱石から酸素を取り除いて鉄にする還元反応)過程で発生しているが、日本の高炉の銑鉄製造の還元材の利用効率は熱力学的な理論値近くまで向上しており、CO2の更なる削減は非常に困難な状況にある。そこで、高炉メーカ4社とエンジニアリング会社1社を含む5社は、製鉄所からのCO2排出量削減のため、2008年から国家プロジェクト「環境調和型プロセス技術開発/水素還元等プロセス技術開発(COURSE50)」の開発に取り組んでいる。
・ COURSE50の主要開発技術の一つは、所内で発生する水素系ガス(コークス炉ガス)を用いて、高炉の炭素による還元(酸化鉄から酸素を取り除いて鉄にする反応過程)の一部を水素による還元に置き換えて、高炉からのCO2排出量を10%削減する水素活用還元技術である。当面は高炉法が、技術的にも経済的にも銑鉄製造法の主流と考えられるため、水素100%還元製鉄が確立するまでの間のトランジション技術として、高炉を前提とした低炭素化技術の確立を更に進める必要がある。
c)当社の強みと具体的なアクション
・ COURSE50の中では、当社独自開発の高炉三次元数学モデルと当社君津製鉄所内に建設した炉容積12m3(実高炉の約1/500スケール)の試験高炉を用いて、理論と実験の両面から開発を進め、高炉からの排出CO2量10%削減の目標を達成した。COURSE50のコンセプトは、H2を約60%含んだコークス炉ガス(COG)を高炉羽口から吹込むことで、水素による鉄鉱石還元の比率を上げるというものであったが、所内で発生する水素系ガス(コークス炉ガス)量には限界がある。次のステップとして、大量の水素供給が可能となる前提で、製鉄所の外部の水素系ガスを多量活用して、水素による還元を飛躍的に高め、高炉からのCOURSE50目標の10%のCO2排出削減目標を大幅に上回る技術にチャレンジする。
・ この技術の実現には、導入した水素をより効率的に鉄鉱石還元に活用するための様々な開発が必要である。例えば、鉄鉱石の水素還元反応は吸熱反応のため、高炉内の鉄鉱石還元促進のための熱補償技術は重要な開発課題である。また、水素を活用する要素技術という点で、水素の燃焼特性を考慮して大量の水素系ガスを高炉に安定供給する技術の確立など、100%水素還元製鉄と共通する要素技術の開発が必要である。
d)チャレンジが実現した場合の定量的な効果
・ SDGsの観点からも鉄鋼材料の大量供給は我々の使命である。技術的経済的にも極めて優れた高炉法のCO2排出原単位を大幅に削減し、CO2分離回収技術と組み合わせて、現行高炉法に対して30%を大幅に上回るCO2排出量の低減が可能な技術を2030年頃までに開発完遂することを目指してチャレンジする。
連携先
経済産業省、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)、JFEスチール(株)、(株)神戸製鋼所、日鉄エンジニアリング(株)