気候変動への適応に向けた国土強靱化ソリューションの提供
日本製鉄株式会社
概要
近年の国内における自然災害は激甚化の様相を呈しており、地震・大雨・豪雪・噴火等の多様な災害の発生により、国民生活に甚大な被害をもたらしている。政府は「国土強靱化基本法」に基づいた「国土強靱化基本計画」を策定し、様々な対応を進めている。
こうした状況の中、当社グループは、国土強靱化に資する技術・商品メニューの拡充を図るとともに、施主(国,地方公共団体等)や設計コンサル等に対する提案活動を実施してきており、特に地震による津波・液状化対策や、農業土木施設(水利施設、ため池等)の補修・補強等の分野については、当社グループの技術・商品の採用が進むなど、着実に成果を挙げてきている。
説明
(1) 普及・実装
さらに激甚化する自然災害の状況や政府の取り組み等も踏まえ、改めて当社としての国土強靱化に対する取り組みについての体制を整備・強化し、全国規模でグループ一体となった活動を強力に展開していくこととし、グループ各社とともに「国土強靱化ワーキンググループ」を立ち上げ、政府施策にもより適応した商品の展開を行う為の横断的取り組みを開始。地域・分野毎に異なる災害類型および災害対策ニーズ毎に当社製品群がどのようなソリューション対応が可能かを分かり易く示すことで、より具体的な提案活動を行い、国土強靭化ソリューションを幅広く提供していく。
【重点分野毎の用途】
● 土木分野
① 港湾・空港・漁港、② 海岸、③ 河川、④ 砂防・地すべり、⑤ 農業水利、⑥ 道路・鉄道(橋梁)、⑦ エネルギー
● 建築分野
① 庁舎・病院、② 学校、③ 駅舎・空港、④ 事務所、⑤ 工場・倉庫、⑥ 店舗、⑦ 住宅、⑧ その他
(2) 技術等の開発
国土強靱化ソリューションの中で、地震、津波、豪雨・台風等の自然災害リスクに適応した、土木分野、建築分野における防災・減災の商品・工法を、大学、研究機関、設計事務所等と連携しながら開発。日本製鉄グループの国土強靭化に資する技術・商品メニューの更なる拡充を図る。
以下に、地球温暖化の影響によると想定されるゲリラ豪雨への対策に有効な開発事例を紹介する。
【開発事例】
① 堤防補強
地域の農業・生活用水を供給するため池のゲリラ豪雨や短時間強雨等による堤体決壊を防ぐため、ため池堤体を構成する地盤材料を挟み込むように堤体内部に2重の鋼矢板壁を設置する、新たな堤体補強工法を開発する。具体的には、①模型実験と数値解析による対策効果の検証(高知大学との共同研究)、②実際のため池に鋼矢板による補強工法を適用した場合の堤体高さ確保、浸透水遮断効果の検証(高知県との連携)を行っている。本工法により堤体を補強することで、豪雨対策のみならず、地震時の地盤液状化による堤体決壊防止工法としても機能し、全国の農業用ため池総数166,638箇所のうち、危険性が指摘されている6万箇所以上に及ぶため池において、堤体決壊による人的被害を防ぐことができる。
鋼矢板壁による堤防補強工法として、海岸堤防への適用拡大へも取り組んでいる。地球温暖化に伴う海水面上昇と、近年多発する大型台風とが組み合わさり、沿岸地域での高潮被害の危険性が増大している。確実に沿岸地域住民への浸水被害を防ぐために、巨大水圧に耐えうる鋼材の強固な特性を生かした海岸堤防補強ソリューションを提供していく。
また巨大台風の増加や、局所地域に停滞する従来経験したことがないような雨量をもたらす線状降水帯により、記録的な集中豪雨に見舞われることが増加し、流下能力を超える水量が一気に河川に流れ込む現象が多発しており、2019年の台風19号が関東・東北地方を中心に来襲した際は、140箇所を超える河川堤防が決壊し、人的被害・住宅全壊など甚大な被害をもたらした。河川堤防においても、ため池と同様に脆弱な地盤材料のみから構成されていることが多く、確実に堤防決壊を抑止するため強靭な鋼矢板を用いた工法開発を推進していく。
② 地下河川
近年、頻発する集中豪雨対策として、川幅の拡張や河床掘削が困難な大都市圏における都市型水害対策として、道路下などに、シールドトンネル工法にて巨大な地下空洞(地下河川)を構築する事例が増えている。地下河川は、セグメントと呼ばれる壁材により構築されるが、この壁材には土水圧による圧縮力と内水圧による引張力の作用により発生する伸縮変形に追従しうる継手構造が要求される。嵌合方式合成セグメントは、変形追従性に優れた嵌合継手を有する鋼・コンクリート合成構造のセグメントで、①セグメント本体の強度性能確性試験、②外圧・内圧作用下での継手挙動を検証する実大継手曲げ試験、③大深度地下の高水圧にも対処しうる独自止水構造の開発と止水性能確認試験、④耐摩耗性・耐食性に優れた内面防食材の開発と耐久性確認試験、を行っている。
本セグメントで構築した地下河川は、東京都をはじめ主要な地下河川に採用実績を有し、激甚化する都市型水害の対策工の一つとして需要拡大が期待されているが、より一層の普及促進に向け、経済性に優れた新型の開発にも挑戦中である。
③ 砂防・地すべり(日鉄建材㈱)
・ 鋼製スリットダム:平常時は無害な土砂を下流へと流し、土石流発生時には巨礫・流木を効果的に捕捉する機能を有する砂防構造
・ ノンフレーム工法:自然斜面上の樹木を可能な限り伐採しないで、樹木が有する斜面安定効果を補完する自然斜面安定化工法
連携先
自治体、大学、関係省庁、ゼネコン、コンサル、設計事務所 等
補足情報
「日本製鉄グループの国土強靱化ソリューション」URL
https://www.nipponsteel.com/product/kokudo_kyoujinka/