水素還元製鉄による鉄鋼製造プロセスのゼロエミ化
日本製鉄株式会社
概要
世界全体のCO2 排出量における鉄鋼業の割合は約9%であり、鉄鋼業の製造プロセスのエネルギー効率を改善することは、継続的な資源利用や地球環境の保全を目指す上で極めて重要である。本テーマでは、製鉄プロセスでのネット・ゼロエミッションを達成するために、石炭に代えて水素を還元材として鉄鉱石を還元する「水素還元製鉄技術」の技術開発にチャレンジする。
説明
a)チャレンジにおける到達目標
・ 石炭(炭素)を用いず、したがってCO2を全く排出しない水素100%で鉄鉱石還元を実現する技術、『水素還元製鉄』の確立
b)チャレンジ実現に向けて克服すべき課題
・ 鉄鋼業が排出するCO2の約7割は高炉を用いた銑鉄製造(酸化鉄である鉄鉱石から酸素を取り除いて鉄にする還元反応)過程で発生しているが、日本の高炉技術における銑鉄製造の効率は、熱力学的な理論値近くまで向上しており、CO2の更なる削減は非常に困難な状況にある。
・ 鉄鉱石の水素還元反応は吸熱反応なので外から反応炉に熱を供給する技術や、水素の燃焼特性を考慮して大量の水素系ガスを反応炉に安定供給する技術の確立などが必要である。
・ 現在の高炉・転炉法は、規模、生産性、原料対応力、コスト競争力、製品品質に極めて優れた方法であり、それに代わる超革新技術の開発が必要である。また、原料調達の制約など、日本の鉄鋼業が置かれている諸条件も考慮すべきポイントである。
c)当社の強みと具体的なアクション
・ 国家プロジェクト「環境調和型プロセス技術開発/水素還元等プロセス技術開発(COURSE50)」において、水素系ガスを用いた高炉での還元反応の一部を水素還元へ置き換える高炉本体の技術開発(CO2排出10%削減)を2008年から取り組んできており、水素還元製鉄の知見や要素技術を蓄積してきた強みがある。
・ 既存のガスによる鉄鉱石還元の方法、シャフト還元炉、流動層還元炉を検討候補とするが、前者では100%水素還元は前例がなく、後者はそもそも商用化の実績に乏しいため、それ以外の方法も含めてゼロベースで開発に取り組む。
・ 本テーマでは、日本鉄鋼連盟の下、高炉メーカーが連携して技術開発にチャレンジしていく。
・ 水素還元製鉄に利用される水素は、製鉄のみならず自動車や民生など様々なセクターで広く利用されることから、社会共通基盤のエネルギーキャリアとして開発、整備されていることが前提となる。特に鉄鋼の製造に利用される水素は、カーボンフリーであることはもとより、多量安価安定供給も重要な要件となる。従って、政府、産業界と連携して取り組んでいく。
d)チャレンジが実現した場合の定量的な効果
・ SDGsの観点からも鉄鋼材料の大量供給は我々の使命である。国内鉄鋼生産においてゼロエミッションを実現するとともに、さらに世界にその技術を普及させて行く。
連携先
経済産業省、日本鉄鋼連盟、JFEスチール(株)、(株)神戸製鋼所
補足情報
鉄鋼連盟 長期温暖化対策ビジョンの策定について
https://www.jisf.or.jp/news/topics/181119.html