鉄鋼スラグを活用したブルーカーボンによるCO2固定化
日本製鉄株式会社
概要
当社は、海の森づくりに向けた鉄鋼スラグ利用の有用性と安全性について科学的な解明を進めてきた。その技術を発展させて、地球温暖化対策として脚光を浴びつつあるブルーカーボン(海洋生態系による二酸化炭素の吸収・固定)の基礎研究を本格的に開始した。鉄鋼スラグを活用して浅場・干潟・藻場などを造成し、沿岸海域の環境改善を図ることで、どのくらいの二酸化炭素を固定することができるのか、当社の保有する大型水槽(シーラボ、写真1)や実海域(写真2)において、基礎データを集積することから着手している。
説明
a)チャレンジにおける到達目標
当社は、製鉄プロセスの副産物である鉄鋼スラグを活用した沿岸環境改善技術(水和固化体、カルシア改質技術、鉄分供給ユニット(商品名:ビバリー®ユニット)を開発してきた。沿岸環境のブルーカーボン生態系としての機能に着目し、我々は当社技術を適用した沿岸生態系における炭素固定能を評価し、造成技術を確立することで実質的なCO2削減に貢献する(図1)。また、炭素固定能の評価方法の国際標準化にも貢献する。
b)チャレンジ実現に向けて克服すべき課題
・ ブルーカーボン生態系における炭素固定能の評価方法は、生物種や地理的な変化が大きいことから、バイオマス量の把握、即時に分解されずに長期間固定化される割合、複雑な沿岸生態系における炭素の動態など多くの研究課題がある。また、同じ理由からできるだけ多くのデータ集積が求められている。
・ ブルーカーボンをCO2削減策として定着させるためには、国のみならず民間の持続的な活動が重要である。その活動をサポートするためには、クレジット化やブルーカーボン生態系の造成資材へのインセンティブ付与などの制度が必要と考える。
c)当社の強みと具体的なアクション
・ 当社保有の大型水槽を活用した評価手法の確立
・ 生態系別(たとえば、コンブ藻場、ガラモ場、アマモ場など)や地域別の炭素固定化のポテンシャルデータの集積
・ ブル―カーボンの社会実装(クレジット化など)に向けた大規模実証プロジェクトの立上げ
・ 鉄鋼スラグを活用したブルーカーボンへの貢献に関するPR活動
・ 環境省などの関係省庁との連携強化
d)チャレンジが実現した場合の定量的な効果
桑江ら(2019)は、2030年までに港湾で発生した浚渫土砂と鉄鋼スラグによる混合土でマウンドを造成するなどして、ブルーカーボン生態系による炭素固定を促進した場合の固定量を試算している(平均157~最大518万t-CO2/年)。当社は、鉄鋼スラグを活用した海域利用技術によるブルーカーボン生態系の造成に貢献していく。
* 桑江ら(2019)浅海生態系における年間二酸化炭素吸収量の全国推計、土木学会論文集B2(海岸工学)、vol. 75、10-20.
連携先
国公立大学、国立系研究所、国交省主催ブルーカーボン研究会、国交省主催ブルーカーボン検討会、環境省ほか関係省庁
補足情報
詳細は、当社HPを参照のこと。
○ ブルーカーボンへの取組
https://www.nipponsteel.com/csr/env/warming/future.html
○ ビバリーユニットの紹介
https://www.nipponsteel.com/product/slag/