甑島でのエネルギー地産地消型モデルの構築
住友商事株式会社
概要
離島のように本土の電力系統から切り離された地域では、再エネによる発電量の変動が系統の安定性に一層大きな影響を及ぼします。そのため、小規模な離島の多くは、再エネを容易に導入できない状況が続いているのが現実です。
当社は、そうした離島の一つである鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市の甑島において、自治体と連携して、再エネの接続環境を整備する事業モデルを構築しています。本プロジェクトでは、旧浦内小学校の校庭を活用し、電気自動車(以下、EV)のリユース蓄電池による大型蓄電システム(800kW)「甑島蓄電センター」と、太陽光発電設備(100kW)「甑島・浦内太陽光発電所」を設置し、電力貯蔵システムを活用した新しい電力需給調整モデルを構築しました。
甑島では、電力の大半がディーゼル発電によって賄われており、燃料の輸送にコストがかかる上に、二酸化炭素の排出量が多いという課題を抱えています。このディーゼル発電を部分的に再エネに置き換えることができれば、離島の二酸化炭素排出量を大きく削減することが可能になります。さらに、このモデルの実現によって、台風などによってしばしば停電に見舞われる離島の電力インフラを安定させ、地域の災害対策機能の強化にも貢献することができます。
説明
本プロジェクトでは、電力貯蔵システムを活用した新たな電力需給調整モデルを構築するとともに、最終的には、これを事業として成立させることを目指しています。
そこで重要なポイントとなるのが、コストの安い「EVリユース蓄電池」の活用です。現状では、蓄電池のコストはまだまだ高く、それが電力貯蔵システム構築の最大のハードルになっていました。しかし、EV用としての使命を終えた蓄電池を再利用できれば、比較的低いコストで電力貯蔵システムを作ることができます。 当社は、2013年にフォーアールエナジー(日産自動車との合弁事業)と共同で、大阪の夢洲(ゆめしま)において、世界で初めての大型EVリユース蓄電池システムの実証実験を立ち上げ、技術面の検証を終えています。甑島では、この設計をさらにスケールアップし、日産自動車のEV「リーフ」36台分の蓄電池を再利用して、経済性の高い電力貯蔵システムを構築しました。
本プロジェクトではさらに、電力貯蔵システムを電力系統に接続して運用することに挑戦しています。地域に設置される複数の再エネは一つの送配電網でつながっているため、個々の再エネに蓄電池を設置するよりも、電力系統の中でまとめて出力変動を安定化させる方が、より効果的に需給調整ができるからです。九州電力の技術的バックアップを得て、電力貯蔵システムを電力系統の中で活用することにより、再エネの出力変動を効果的に安定化させ、できる限り多くの再エネを島に呼び込むための接続環境を提供したいと考えています。
このように、電力貯蔵システムを系統に接続して、出力変動の安定化のサービスを再エネ事業者に提供する事業は、これまで国内には存在しませんでした。本プロジェクトの事業化を実現するためには、新しい電力関連事業を扱う制度面の整理や、取引の仕組み作りなどに取り組む必要があります。当社は、業界の先駆けとして甑島で本プロジェクトを立ち上げ、蓄電池を活用したエネルギーマネジメント事業を創出して、再エネの普及、拡大に貢献していきたいと考えています
当社は、本プロジェクトの事業主体として、EVと再エネという低炭素社会を実現する二つのキーテクノロジーを橋渡しして、電力、エネルギー関連分野における新たな価値創造を目指します。この取り組みをショーケースとして、地域経済の活性化にも貢献したいと考えています。
蓄電池を核としたエネルギーマネジメント事業は、国内外の小規模な離島で役立つだけではなく、再エネの導入拡大が課題となりつつある本土の生活エリアでも活用可能です。そのためには、社会や環境に貢献すると同時に、安定的に収益を生み出す仕組みを作り、長期的に持続できる事業に発展させていくことが重要になります。
当社は、本プロジェクトを足掛かりとして、蓄電池による電力安定化サービスを提供する新たなエネルギーマネジメント事業を創出し、将来的には、海外の離島をはじめ、電力の需給調整に悩む新興国、電力自由化の進んだ欧米などさまざまな地域で同様の事業を展開し、再エネの普及、拡大による持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。
連携先
鹿児島県薩摩川内市