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大気中に排出されるCO2の大量削減とエネルギー資源開発の両立

ENEOSホールディングス株式会社

CO2-EORの仕組み

(左)CO2回収プラントを含む発電所風景 (右)West Ranch 油田風景

概要

ENEOSグループの中核事業会社・JX石油開発は、予てから温室効果ガス排出削減を意図して油田の随伴ガス燃焼廃棄を抑制する事業をベトナム/アブダビで実現しています。現在は一歩進めて、米国で「二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)」技術を原油生産に適用し事業化するPetra Nova CCUSプロジェクトを推進しています。今後もCO2排出削減とエネルギーの安定供給両立の実現を目指します。

説明

CCUSとは、「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、「二酸化炭素回収・利用・貯留」技術と呼ばれます。発電所などから排出されたCO2を、他の気体から分離して集めて有効利用しつつ、地中深くに貯留・圧入するものです。当社グループでは、環境負荷の低減とエネルギー資源の安定的な供給の両立を実現するため、JX石油開発が重点技術と位置付けるCO2-EOR(EOR:Enhanced Oil Recovery)技術によりCO2を活用し、「温室効果ガス排出削減」と「原油増産による事業継続」の両立に挑戦しています。

通常の原油生産方法では多くの原油は生産されずに油層中に残存しますが、高温/高圧で超臨界状態のCO2が油層に圧入されると、それらの残存原油に作用してミシブルと呼ばれる混合状態を作り、原油の流動性が高まることで残存原油が油層中を流れ、結果として原油の増進回収につながります。

当社グループは、過去の事業経験を基に、2014年に米国大手電力会社NRG Energy Inc.(NRG)とともに、石炭火力発電所排ガスCO2を活用した原油増産プロジェクト(Petra Nova CCUS Project)の事業化に向けた投資を決定しました。同プロジェクトは、老朽油田における原油の飛躍的な増産と、石炭火力発電所から大気中へ大量に排出されるCO2の削減を同時に実現させる先駆的で画期的、かつ世界最大規模で民間が商業ベースで推進するCCUSプロジェクトです。

Petra Nova CCUS Projectでは、アメリカ・テキサス州ヒューストン市の南西に位置する米国最大規模の火力発電所であるW.A. Parish発電所内に、世界最大規模のCO2回収装置を建設し、同所石炭火力発電の排ガスから日量約5,000tのCO2を回収しています。回収したCO2はパイプラインで130km離れたWest Ranch油田に送られ、油田に圧入されています。

CO2回収装置は2016年末に稼働を開始し、これまでに360万トン以上ものCO2を回収しました。なお、回収される日量約5,000tのCO2は、乗用自動車からの排出量換算で60万台分に相当いたします。CO2回収装置の耐用年数は約30年と見込まれており、今後も同発電所から排出されるCO2の回収を継続する予定です。

原油の増進回収/CO2貯留が行なわれているWest Ranch油田は、1938年に発見されて以降2000年代までに約700本の坑井が掘削され、累計で約4億バレルの原油を生産した米国内でも有数の巨大陸上油田です。

1970年代のピーク時には日量4万バレル以上の原油を生産していましたが、このプロジェクト開始前には日量300バレルまで減退していました。現在の生産量は、日量約6,000バレルと約20倍に増加し、2016年末のプロジェクト稼働以来の累計生産量も400万バレルを超えるなど、CCUS事業として大きな成果が得られていると考えられます。

West Ranch油田では、CO2を安全かつ効率的に永久的な地下貯留を行うため、計画通りCO2が貯留されていることを実証する各種のモニタリング(地表、土壌、地下水、油層上部層など)を実施しています。CO2地下貯留の商業的事例はほとんどなく、モニタリングに関する法整備や技術的基準は確立されていなかったため、環境地質の世界的権威であるテキサス大学と共同でモニタリング計画を策定し、実際に3年間のデモンストレーションを成功させました。この成功は、今後のCCUSプロジェクトや新たなCO2-EORプロジェクトの評価や実行で活用されることが期待されています。これらも踏まえ、West Ranch油田では2030年頃までCO2の圧入を継続し、EORを続けていきます。

なお、本油田は、JX石油開発とNRGが共同で折半出資するPetra Nova Parish Holdings LLCと、オペレーターである独立系大手石油会社Hilcorp Energy Company(Hilcorp)がそれぞれ50%の権益を保有しています。Petra Nova CCUS Projectの必要資金は、スポンサー各社による拠出のほか、米国エネルギー省からの、環境調和的な石炭利用技術開発を促進することを目的としたクリーンコール発電イニシアチブに基づく1億9,500万米ドルの補助金、株式会社国際協力銀行および株式会社みずほ銀行によるプロジェクト・ファイナンス方式での融資により賄われています。なお、みずほ銀行の融資に対しては、独立行政法人日本貿易保険による保険が付保されています。

また、当社グループは2018年10月にJOGMECと共同で、インドネシア国営石油会社のPT Pertamina(プルタミナ)との間でCO2-EOR技術の活用を含む上流事業全般を対象とした共同スタディ・共同事業検討に関する覚書を締結しました。当社グループおよびJOGMECが有する知見・技術を活用し、プルタミナおよびその関係会社が保有するインドネシア国内の油・ガス田を対象に将来の事業化を見据え、スタディを通じて共同事業の機会を追及していきます。

化石燃料の燃焼排ガスからCO2を回収し地下に封印することは、地球温暖化対策の切り札とされ久しいですが、そのための膨大なコストを誰がどのような形で負担するかが未解決の難問です。JX石油開発のCO2-EORを重点技術と位置付けた取り組みは、回収したCO2を有効利用することによりそのコストを負担するという、難問への回答案を具体的に示す挑戦でもあります。Petra Nova CCUS Projectは原油価格の下落影響を受けやや困難な状況にありますが、「温室効果ガス排出削減」と「原油増産による事業継続」の両立に向けて、現場ではCO2回収装置の安定操業、EOR効果の最大化、さらなるコスト削減等の努力を日々続けています。

当社グループは、環境負荷低減や地球温暖化対策という課題に取り組みながら、エネルギーをお客様に届けることにより、社会の発展と活力ある未来づくりに貢献するための挑戦をこれからも続けてまいります。

連携先

NRG Energy, Inc.、米国エネルギー省、Hilcorp Energy Company、株式会社国際協力銀行、株式会社みずほ銀行、独立行政法人日本貿易保険、The University of Texas, Bureau of Economic Geology、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、PT Pertamina

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