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高機能密閉ボックスを活用した低環境負荷輸送へのチャレンジ

旭化成株式会社

概要

現在、青果物の輸送では、冷蔵トラックの利用が主流だが、解決すべき多くの課題がある。その課題の一つが環境負荷の問題である。冷蔵トラックを用いた輸送は冷蔵にエネルギーを要するため、常温トラックに比べて環境への負荷が高い。
旭化成では、高機能断熱材と環境センシング機器、鮮度保持ノウハウを組み合わせた密閉ボックスを開発した。冷蔵トラックを用いずとも、青果物の鮮度を保持しながら輸送が可能となる新しい輸送システムを開発 中であり、このシステムを技術的に完成させることはチャレンジングな取り組みである。また、このシステムを社会へ普及・実装していくためには、密閉ボックスの高い積載率の実現が必須であり、積み込まれる青果物の段ボールサイズの最適化と基準化といった大きなチャレンジが伴う 。 これを実現できれば、青果物輸送での大幅な環境負荷の低減に貢献することができ る上、将来的には、冷蔵インフラの整っていない世界の開発途上地域に展開してい くことで 、フードロスの削減、ひいては水資源の節約にもつなが ることになり 、多様なSDGsの課題の解決にも貢献しうる。

説明

青果物の物流では、 輸送・保管中の温度・湿度・ガス環境を最適な条件にすることによって、鮮度の保持が可能になる。現在、温度環境の最適化のために、冷蔵トラックを用いた輸送が行われているが、実際の輸送環境を測定すると、扉の開閉による庫内温度の変動や、荷積み・荷下ろし中の急激な温度上昇など、輸送中の温度を最適化できていない状況が多く発生している。加えて、冷蔵トラックでは湿度・ガス環境の最適化は不可能であり、さらに最適な輸送環境を実現するために新たな輸送システムの確立が求められていた。旭化成が新たに開発した密閉ボックスは高い断熱性能と気 密性を兼ね備えており、青果物の温度上昇を抑制するだけでなく、湿度・ガス環境の制御も可能となる。 2018,19年度には大学と共同研究を行い、高機能密閉ボックスと常温トラックを組み合わせた輸送は、従来の冷蔵トラックによる輸送と同等以上の青果物の鮮度保持が可能であることを実証した。
密閉 ボックスを活用した青果物の輸送は鮮度保持だけでなく、環境負荷の低減にも非常に有効である。冷蔵トラックは冷蔵にエネルギーが必要であることはもちろん、冷蔵ユニット自体の重量も加わることから、常温トラックに比べて燃費が悪い(10t トラ ックの平均実燃費:常温トラック約 4.0km/L 、冷蔵トラック約 3.7km/L )。また、冷蔵トラックは停車中にも冷蔵ユニットに電力を供給し続ける必要があるため、電源設備が十分確保できない他の輸送方式の活用が難しい一方、常温トラックであればフェリーなどの低環境負荷の輸送方式と任意に組み合わせた輸送 (モーダルシフト が可能となり、省エネ・環境負荷低減が期待できる。

密閉ボックス輸送システムの導入によるCO2排出削減効果は、特にモーダルシフト可能な長距離の輸送において効果的である。長距離の輸送(例えば九州地区から関東地区までの青果物輸送における CO2 排出削減量を試算した場合、 最大約69%の削減効果があると見積もられる 。現在、国内での食糧輸送に伴うCO2排出は年間約900万tあると言われている。 密閉ボックス輸送システムの実装・普及によるCO2削減ポテンシャルについて試算すると 、最大で約 2.8%に相当する年間約25万tのCO2排出削減が可能であると見込まれる。 (各種統計値を用いた推計値)。

このシステムの社会への普及・実装に向けては、密閉ボックスの積載率を高めることが重要である。積み込まれる青果物の段ボールサイズを最適化し、基準化していくためには、一つの会社だけで取り組むのではなく、運輸業界や生産団体と協力しながらチャレンジしていく必要がある。
更に、本システムは世界のフードロス、水資源枯渇問題の解決にも貢献しうる。開発途上国では、冷蔵物流(コールドチェーン)の仕組みが整っていないため、輸送中に青果物が劣化し、廃棄せざるを得ないケースも多い。本システムをコールドチェーン未整備な国々に展開することで、収穫から需要家までの輸送中の劣化を抑制し、サプライチェーンにおける食料の損失を減少させることができる。

連携先

運輸業界、生産団体

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