「未来創生ファンド」と「中部圏水素利用協議会」を通じた水素社会実現に向けた資金供給メカニズム構築への挑戦
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
概要
三井住友銀行は、2015年11月、スパークス・グループ株式会社が設立した未来社会に向けたイノベーション加速を目的とする「未来創生ファンド」に、トヨタ自動車株式会社と共に出資者として参画。「未来創生ファンド」は、「知能化技術」「ロボティクス」「水素社会実現に資する技術」を中核技術と位置づけ、それらの分野の革新技術を有する企業、またはプロジェクトを対象に投資を行う(なお、「水素社会実現に資する技術」に関しては、水素の製造・供給・利用に関わる企業・プロジェクトへの投資も含む)。2018年7月には、1号ファンドの投資対象領域に「電動化」、「新素材」を加えた2号ファンドを新たに設立し、再び出資者として参画。
また、2020年3月には、中部圏における水素の需要拡大と安定的な利用のためのサプライチェーン構築を目指し、水素の大規模利用の可能性を検討する「中部圏水素利用協議会」を設立し、事務局として参加。協議会での活動を通じ、水素社会の実現に向けた取組を金融面からサポートするとともに、低炭素社会への移行に向けた取組を進めている。
説明
1.「未来創生ファンド」を通じた水素社会実現に資する技術を有する企業の育成
「水素社会実現に資する技術」を有する主な投資先の投資時点での取組は以下の通り(公表ベース)。これらの出資を通じ、環境問題・新技術開発へのチャレンジを行う企業や事業を育成し、脱炭素社会の実現に向けたイノベーション加速に貢献するとともに、イノベーションに対する資金供給メカニズム構築に挑戦していく。
(1) エクセルギー・パワー・システムズ
エクセルギー・パワー・システムズは、2011 年東京大学発ベンチャーとして創業したハイブリッド水素電池、水素製造領域で独自の技術を有する蓄エネルギー領域のベンチャー企業。既にニッケル水素電池と水素ガス電池のハイブリッド水素電池の開発に成功し、連続急速充放電特性と耐久性の両立を実現しており、現在開発中である世界的にも極めて効率の高い水素電気分解技術は、水素社会の実現への大きな一歩になるとの期待が寄せられている。
(2) FLOSFIA
FLOSFIAは、2011 年設立。京都大学発のミストCVD 技術を独自に発展させたミストドライ™法を用い、パワーデバイス事業と成膜ソリューション事業に取り組む。パワーデバイス事業は、次世代パワー半導体材料として期待される酸化ガリウムを使い電力変換損失を大幅に削減しコストも安い半導体の量産化を目指す。成膜ソリューション事業は、高品質で被覆性が良く、様々な薄膜を合成できる独自技術であるミストドライ™を使ったサービスを企業の研究開発部門や事業部門に提案している。
(3) 名城ナノカーボン
名城ナノカーボンは、2005 年設立の名城大学発ベンチャー。高結晶・高純度単層カーボンナノチューブSWNT の準量産技術を世界で唯一保有。同社の SWNT は他の導電性カーボンに比べ、圧倒的に導電性能が高く、軽量であることが特徴。航空機や自動車メーカー、石油化学素材業界などに研究開発素材として使われていて、将来的には質量が重い銅に代替することができる素材として注目されている。株式会社大阪ソーダを量産パートナーとし、苛性ソーダ生産時に発生する副生水素を有効活用した工業化への取組を進めている。
(4) 日本水素ステーションネットワーク(JHyM)
JHyM は、再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議「水素基本戦略」での水素ステーション整備推進役として、2018 年2 月に設立された。全国での水素ステーションの本格普及を目指す。
(5) AP Ventures
AP Ventures は、地球規模の環境およびサスティナビリティに関する課題に取り組む技術開発を推進する企業に投資。中でも水素技術に最注力しており、当ファンドのポートフォリオには水素バリューチェーン、FCV、水素貯蔵などに関わる欧米のスタートアップ企業が並ぶ。
2. 「中部圏水素利用協議会」を通じた水素社会実現に向けた課題整理
日本政府が策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」において、当面の目標として、2030年に年間30万トンの水素を利用するという大規模な水素供給システムの確立が掲げられている。こうした状況の中、水素の製造・供給サイドでは、様々な企業により社会実装に向けた新たな技術や方策の実証が進みつつあるが、水素を利用する需要サイドでは、大規模な使い方や水素利用量の拡大についての検討が個社レベルに留まっているのが現状であり、中部圏で産業界を横断した協議会を立ち上げ、大規模な水素利用の具体的な方策を検討し、供給サイドと連携を図りながら、社会実装に向けた取り組みを進めていくため、「中部圏水素利用協議会」を立ち上げた。
協議会では、当面の目標である「2030年に水素利用量年間30万トン」に弾みをつけるために、2020年代半ばからの社会実装開始を目指して、以下の活動に取り組んでいく予定。
▽ 海外からの水素大規模輸送が始まることを想定した、中部圏での水素受入拠点から需要サイドまでのサプライチェーンの検討
▽ 発電・石油産業等の各製造業の企業活動やモビリティでの利用など、中部圏全体での水素利用量のポテンシャルの試算
▽ 各々の需要サイドで受け入れ可能な水素コストの検討
▽ 実現に向けた技術面・金融面・制度面での課題を整理し、必要な施策と社会実装につながる事業モデルの提案
(※)協議会 参画企業(2020年3月6日協議会設立時点/50音順/*は事務局)
出光興産株式会社、岩谷産業株式会社、JXTGエネルギー株式会社、*住友商事株式会社、中部電力株式会社、東邦ガス株式会社、*トヨタ自動車株式会社、日本エア・リキード合同会社、*株式会社三井住友銀行、三菱ケミカル株式会社
連携先
出光興産株式会社、岩谷産業株式会社、JXTGエネルギー株式会社、スパークス・グループ株式会社、住友商事株式会社、中部電力株式会社、東邦ガス株式会社、トヨタ自動車株式会社、日本エア・リキード合同会社、三菱ケミカル株式会社