EN

長寿命風力発電用軸受鋼の開発によるCO₂ゼロ・エミッション化への貢献

山陽特殊製鋼株式会社

図1 風力発電設備外観

図2 一般的な風力発電機の構造と軸受※ (※ NTN株式会社殿のご好意により右記URLより転載  https://www.ntn.co.jp/japan/corporate/digest/business01.html)

概要

 昨今、発電事業に対してCO₂排出ゼロ化への要求が世界各地で急速に高まっている。図1に示す風力発電はその有効な方策の一つとして認識され始め、欧州を中心として広がりつつある。

 風力発電設備普及への大きな課題の一つは、連続的に安定した発電が行える信頼性の高い設備とすることである。これは設備のメンテナンス機会を少なくすることと同義で、これを達成するために設備稼働中のトラブルを抑制することが求められている。すなわち、風力発電設備の基幹部品である軸受には、高い信頼性が求められる。

 そこで当社は、これまでに培ってきた鋼の高清浄度化技術を基に、安定した長寿命特性が得られる風力発電用軸受鋼の開発を目指す。更に実装、展開を図ることにより、CO₂ゼロ・エミッション化に貢献して行く。 

  

説明

(1)風力発電設備普及における具体的な課題

 普及への課題は大きく分けて二つある。一つは「設備初期コストの低減」である。高い効率で安定した発電を行うことが要求されるため、設備が風況の良い山岳地や海上に設置されるケースが多く、そのため初期コストが多くかかる。日本について言えば、風力発電に適した土地が乏しいため、地上よりも多くの設置費用がかかる海上を選定せざるを得ず、その事情から他国よりも普及が進んでいない。現在、各方面で低コスト化に向けた海上発電の技術開発が急ピッチで行われている。

 もう一つの課題は、「設備メンテナンス回数の抑制」である。発電効率を高めるため、あるいは風車を大径化して大容量で発電するため、基幹部の発電機動力回転部(ハブ内主軸、増速機ならびに発電機)は、メンテナンス性が低い高所に設置される。この重要部において予期しないトラブルが起これば、運転コストが高くなってしまう。すなわち当社には、心臓部の動力回転部で用いられる軸受鋼に対して、安定した長寿命品質が求められている。

(2)当社のチャレンジの目標

 上述した課題を克服するため、当社は素材供給サイドからの貢献として、以下の2点をチャレンジの目標に掲げる。

 ①現状明確にされていない風力発電設備に固有な環境下での軸受の疲労(転がり疲れ)メカニズムを可視化する。

 ②得られたメカニズムに基づき、定量的に寿命の予測が可能な長寿命軸受鋼を開発し、市場供給を行う。

(3)目標達成に向けた具体的な取組み

 図2に示す通り、一般的に発電の要となる動力回転部は、主軸部、増速機部および発電機部の3つで構成されている。各部の軸受は、回転数、荷重、潤滑条件などがそれぞれで異なるため、各部にて特有の使用環境となっている。また常に変化する気象条件で使用されるため、軸受部品は絶えず条件が不安定な転がり疲れ環境となっている。これらの環境下で使用される軸受の疲労メカニズムは、影響因子が複雑であることから、現在においても明らかにはされていない。当社は、最先端の転がり疲れ試験方法とシミュレーション技術との組合せにより、そのメカニズム解明を目指す。更に破壊に至るき裂挙動(生成⇒伝播⇒破壊)をモデル化し、それに基づく定量的な寿命予測が可能な長寿命軸受鋼の開発を行い、市場化を図る計画である。

(4)本チャレンジの実現による効果

 当社は、本チャレンジの実現による安定した長寿命特性が得られる風力発電用軸受鋼の開発・市場化を行い、課題であった風力発電設備の信頼性向上を通じた普及に貢献する。

 

補足情報

山陽特殊製鋼株式会社 Sanyo Technical Report, Vol.13 (2006), p.73.

「風力発電機用軸受および軸受用鋼」

http://www.sanyo-steel.co.jp/technology/images/pdf/13/13_07.pdf

 

この会社の他の事例

熱交換器用高強度耐熱鋼管の開発による各種工業炉操業におけるCO₂排出量削減

山陽特殊製鋼株式会社

> 詳細を見る

類似事例

2050年ゼロエミッションを目指して

日本航空株式会社

> 詳細を見る

48Vハイブリッド車向けエンジン出力軸直結型ISGシステム

三菱電機株式会社

> 詳細を見る

CCS実現に向けた取り組み

日揮ホールディングス株式会社

> 詳細を見る

CO2回収に適した次世代火力発電(酸素吹IGCC)の実現

電源開発株式会社

> 詳細を見る

CO2排出ゼロ飲料・酒類製造に向けた再生可能エネルギー導入

サントリーホールディングス株式会社

> 詳細を見る