地域分散自給自足型のスマート防災エコタウン
積水ハウス株式会社
概要
日本は地震や台風など自然災害が多く、住宅の防災性能が重要です。また、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の国民負担が大きいことから、FITによらず再生可能エネルギー導入を促進するビジネスモデルが望まれます。さらに地域の活性化のためには、地域の富の流出を防ぐ必要があります。
このため太陽光発電システム、非常用発電機、蓄電池及び日本初の自営線マイクログリッドを組み合わせたスマート防災エコタウン(以下「スマートタウン」と呼ぶ)を開発しました。このスマートタウンでは、太陽光発電システムで発電した電力をFITで売らずにスマートタウン内で消費します。また、停電でも最低3日間は通常の電力を供給でき、それ以降も最低限の電力供給を継続することが可能です。さらに、電力供給は地域新電力事業者を立ち上げることで、電力事業の利益を地元に還元でき、雇用も生み出しています。
このようなスマートタウンを増やすことで、温暖化防止と地域防災性能の向上を目指します。
説明
【チャレンジにおける到達目標】
日本のまちづくりには、気候変動に対する緩和だけでなく、頻発する最近の異常気象への適用も重要です。この為には緩和と適用を両立できる分散型地域循環システムの構築が望まれると考え2016年に「東松島市スマート防災エコタウン」を第1号として建設しました(1)(2)。今後も、より多くのスマートタウンを建設する事で、温暖化防止及び地域防災性能の向上を目指します。
【チャレンジ実現に向けて克服すべき課題】
停電時に地域電力と切り離して電力供給を継続するためには、配電網の自営線化が必要になります。しかし、コストや行政手続きなどのハードルが多岐にわたり、地域ごとに課題が異なります。このため実際に建設を行わない限り、課題の特定すら難しい状況です(配電網の設営は大手電力会社しか実績がない)。また、スマートタウンの構成は地域特性により異なります。したがって、多数のスマートタウンを建設し運用することで、課題の明確化や解決方法が明らかになります。
東松島市スマート防災エコタウンは環境省の平成26年度「自立・分散型低炭素エネルギー社会構築推進事業」の補助を受けて建設されましたが、利益を生み出せないと、この様な補助制度が無くなると建設できなくなるため、今後は利益を生むビジネスモデルの開発が必要です。
【具体的なアクション】
2011年の東日本大震災の津波被害を受けた東松島市に、2016年「東松島市スマート防災エコタウン」が完成しました。太陽光で発電した電気をFITで売電しないビジネスモデルを構築するためには電力受給のバランスが重要で、住宅だけだと日中の電力消費が少ないために余剰電力が発生しますが、日中に電力負荷の大きな施設を組み合わせることで、太陽光発電の電力を使い切る計画としました。このため、東松島市スマート防災エコタウンは85戸の災害公営住宅に、4つの病院、公共施設を組み合わせました。
システムは、敷地費用を必要としない調整池や集合住宅の上などに460kWの太陽光発電システムを設置し、加えて、500kVAのバイオディーゼル非常用発電機、480kWhの大型蓄電池と域内を結ぶ自営線の配電網から構成されています。
電力の託送料金は、距離には関係なく低圧では6~8円/kWh程度コストがかかります。このため本ビジネスモデルは自営線とすることで、初期費用を除いて考えれば、燃料費をかけずに発電した太陽光発電の電力を託送料なく売電できるため、収益性が高くなります。初期費用に関しては、太陽光発電のコストは年々低下しており、また多くの街で自営線を設置するようになれば自営線のコストも低下すると考えられます。
2016年6月からの運用開始以降の実績では、街全体の電力消費に占める太陽光発電の割合は25%でした。これはFITで売電しないビジネスモデルでは、太陽光発電の容量を、電力負荷が小さく発電量の多い春や秋に余剰電力をできるだけ発生させない程度に小さめに設定する必要があったためと、電力負荷が大きい夜間は発電しないため系統電力を使うためです。太陽光発電の自給率を向上させるためには、蓄電池の容量を大きくし、数日単位の変動を充放電によりバランスさせること、水素などを利用したエネルギーの季節間の長期貯蔵が必要です。このため、今後はこれらの開発を推進します。
2017年7月には台風により実際に周囲の電力網で停電が発生しましたが、このスマートタウンでは自動的に非常用電力に切り替わり、街全体で通常の電力供給が行われ、まちの防災性能が高いことが実証されました。
また、電力供給事業は、HOPE(一般社団法人「東松島みらいとし機構」)が行っており、地元に雇用を生み、利益を還元しています(3)。
【温室効果ガス削減の効果】
東松島市スマート防災エコタウンは年間約300t-CO2を削減
連携先
東松島市市民生活課環境係 係長 菊地昭男
a-kikuchi@city.higashimatsushima.miyagi.jp
補足情報
(1) 東松島市スマート防災エコタウン電力マネジメントシステム構築事業
http://hm-hope.org/?page_id=286
(2) 日本初のマイクログリッドで、災害に強く、環境にやさしいまちづくり
https://www.sekisuihouse.co.jp/crepre/solution/kouei01/
(3) HOPE(東松島みらいとし機構)
http://hm-hope.org/?page_id=109