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木造新生産システム(木造多軸加工機)を核とした木材資源総合活用事業

前田建設工業株式会社

"写真1. ICI総合センター(茨城県取手市) ICIラボ・ネスト棟の梁・柱の一部"

写真2. ICIラボ・ネスト棟に設置されたフクイラプトルの骨格

持続可能な森林循環 概念図

概要

昨今の公共建築物における木造建築の推進により、大規模木造向けの木材の需要が高まっている。しかし、これまで住宅産業で用いられてきたプレカット加工機では大規模木造用の加工は難しく、海外製の大型プレカット加工機に頼らざるを得ないにもかかわらず、その費用が高額なことから、中小企業には手が出せないのが現状である。
当社では、大規模木造建築を広く普及させていくうえでのボトルネックを、人材、建築ノウハウ、木材加工技術、最終的にはその上流にある山林(林業経営)にあると考えている。
日本の森林資源を存分に活かし、木材流通の上流である山林から下流である街中の建築物まで、一気通貫で木材の価値を社会に伝える事業・「木材資源総合活用」の重要な要素のひとつが、この“木造新生産システム”である。
木材資源総合活用事業は、森林管理による国土のレジリエンスならびに国産木造建築の推進(資材のCO2の削減)によるネット・ゼロの実現に寄与する。

説明

2019年1月に創業100周年を迎えた当社は、次の100年に向けて「総合インフラサービス企業」を目指しており、さまざまな社会インフラシステムの革新に取り組んでいる。
昨今では持続可能な社会の実現に向け、多くの企業や団体が、SDGsの達成に寄与することを念頭に置いて事業を推進しており、当社も建設事業者として、ゴール11(住み続けられるまちづくりを)やゴール12(つくる責任つかう責任)、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)等への取り組みは欠かせないと認識している。

そのようななか、当社では、木材の活用を単に建築に限定せず、木を「伐って、使って、植えて、育てる」という一連の循環が経済活動とともに行われる、いわば“持続可能な森林循環”が、本来あるべき木材活用の姿との考えから、「木材資源総合活用事業」と位置づけ、活動を行っている。

当社では、この木材資源総合活用事業を通じ、上記のゴール達成に加え、次の2点からレジリエンスならびにネット・ゼロの実現に寄与できると考えている。

1.林業経営の活性化による災害等の防止
2.建築の木質化および大規模木造建築の推進によるCO2吸収量の増加

持続可能な森林循環により林業経営が活性化し、森林が適切に管理されるようになると、水源涵養機能が存分に発揮され、洪水の緩和や山崩れの防止、川の流量の安定など、レジリエンスの向上につながる。
また、建築の木質化や大規模木造建築の推進においては、製造時からCO2を排出するRC造やS造と異なり、部材そのものが炭素を貯蔵していることや、森林によるCO2の吸収源の保全が重要である。パリ協定では、2030年までにCO2を25%削減(2013年度比)しなければならないが、二酸化炭素の主な3つの吸収源である森林、土壌、および海洋のうち、努力によってこの吸収量を増やせるのは森林しかない。
国産材の現状として、人工林の約7割を占めるスギ・ヒノキは、材料としての適齢期を迎えているが、既に成木となっているこれらは、成長段階にある若い樹木と比較して、CO2の吸収量が少ない。そのため、成木となったスギやヒノキを積極的に伐採、利用し、次世代資源となる若い樹木を植えることで、CO2の吸収量の増加に結びつくと考えている。

さて、大規模木造建築物件の増加に伴い、私たちは大規模木造建築に関する技術を磨き、ノウハウを蓄積し、それを活かす技術の開発に向き合う必要があるが、木材資源総合活用という視点で考えたとき、大規模木造建築普及のボトルネックの一つとなっているのが、木材加工である。
これまで住宅産業の分野では、部材加工のほとんどでプレカット加工技術が用いられてきた。しかしこれでは大規模木造建築に対応が難しい。そのため、現在のところは海外メーカー製の加工機に頼らざるを得ず、かつ、それらは価格、規模ともに大きいゆえに、中小の木材加工メーカーにはなかなか手が出せないとう課題も見られる。
この、木材加工技術に着目して千葉大学工学研究院(平沢研究室)と共同開発したのが、木造多軸加工機による“木造新生産システム”である。
多軸加工機は文字通り複数の軸を備えたプレカット加工機で、アームの先端に装着した刃物で木材をカットする。
この木造新生産システムの魅力は、は大きく次の2点に集約される。
1. BIMとロボティクスの連携
2. ロボット職人による人工技能の実現

写真1(右)をご覧いただきたい。これは当社ICI総合センター(茨城県取手市)ICIラボ・ネスト棟の梁・柱の一部である。ネスト棟は当社単独では初めての純木造設計施工案件であり、傾斜のついた屋根が放射状に広がるデザインを実現するうえで、仕口や寸法などが部材毎に全て異なる。この梁や柱の一部を、木造新生産システムを用いて加工した。
また、写真2(下)は同じくICIラボ・ネスト棟に設置されたフクイラプトルの骨格標本である。これに用いられた骨格は全て木造新生産システムで切り出した。これだけの種類かつ複雑な曲面の部材を短期間に、人力で切り出すのは困難だが、多軸加工機を利用した結果、製作期間は約4か月であった。
また、このプロジェクトは遠隔地と2拠点での分担作業となったが、情報の共有システムを構築・活用することで、スムーズな連携による製作を実現した。
このように、木造新生産システムは、大規模木造建築向けの木材加工は勿論のこと、BIM(Building Modeling Information)データを活用することで高精度の加工が施せるだけではなく、正確な3Dデータさえあれば繰り返し同じものを大量に、つまり、多品種大量生産が可能になるという大きなメリットがある。また、BIMデータを活用し、減少の一歩をたどっている日本古来の伝統技術(欄間や寺社仏閣の飾り彫り等)も未来へと伝承も可能となる。
本システムは、これまでの木材加工における障壁を壊し、国産で一から作り直した画期的な試みである。ロボットアームに刃物を装着し、BIMデータに合わせて自動的に3D形状を切削。複数のロボットの連携や、ツールの自動持ち替えが可能なため、部材の反転など、作業途中で人を介入させる必要がなくなり、生産性向上が図れる。
かつ、本システムのロボットアーム単体重量は560kg,最大リーチは2050mmと非常にコンパクトなため、中小の加工工場への導入も可能だと考えられる。

木造新生産システムはすでに実用化に向けた最終実験段階にある。このシステムが社会実装-つまりプレカット工場で利用されることにより、その川上である山林からの材料供給と市場ニーズとのマッチングをスムーズに行えるだけでなく、木材加工の効率化と安全性の向上、ひいては大規模木造建築工事の効率化にも役立つ。
当社では、このシステムを持続可能な森林循環の「使う」段階で社会実装することを皮切りに、「植える」「育てる」「伐る」それぞれに事業として関わりながら、それぞれの段階のパートナーとともに、木の持つ価値が正しく評価される社会、山林に価値に見合った対価が還元される社会の構築=まちづくりに多面的に関わっていくビジョンを展開している。
木材の持つ価値を最大化する「木材資源総合活用事業」は、当社が総合インフラサービス企業を目指すなかでの重要な取り組みの一つであるといえる。

連携先

千葉大学工学研究院 平沢研究室
http://www.hlab-arch.jp/

補足情報

前田建設×木 「木で建ててみよう」
https://kidetatetemiyou.com/

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