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新型省エネ燃焼システムの拡販による省エネルギー化

大同特殊鋼株式会社

図1:DINCS®システム構成

図2:省エネ率比較

概要

 CO₂排出量削減を背景に、燃料消費量の削減は熱処理炉の重要な課題となっている。熱処理炉のおける既存省エネ対策の代表例としてリジェネレイティブバーナーシステム(以下、リジェネという)が挙げられる。しかし、リジェネは大きな省エネ効果が期待できる反面、高いイニシャルコストやメンテナンス負荷の増大などの多くの問題を抱えている。そのような中、シンプルで高効率な省エネ機器の登場に期待が高まっていた。

 リンティング技術と炭化ケイ素の材質特性を活かした、高効率かつシンプルな新型省エネ燃焼システム(商品名:DINCS®)を開発し、熱処理炉の燃料原単位10.2[%]低減を実現した。その省エネ性能はリジェネにも引けを取らず、尚且つ改造導入の容易さやメンテナンス性はリジェネを遥かに凌ぐ。当社はDINCS®の普及・拡販によって、熱処理炉業界全体のCO₂排出量低減にチャレンジする。

 

説明

 鉄鋼材料の代表的な特徴のひとつに、鋼材温度の上げ方、下げ方あるいは保ち方により結晶構造や組織が変わる「変態」がある。この変態を意図的に起こし、材料の加工性向上、歪みの除去などを目的に調質を図る熱処理は、鋼材の品質を担保するために欠かすことが出来ない工程と言える。熱処理工程においては、鋼材周囲の環境(雰囲気)に含まれるO2あるいは分子構造上O2を有する水蒸気(H2O)、CO₂が極力少ない状態で加熱を行うことが重要となる。O2分子を含む環境下で鋼材を加熱すると空気中のO2と鋼中のFeとの酸化反応や、鋼中のCが酸化されて鋼材から流出(脱炭)するためである。

 従来から熱処理炉で広く用いられている加熱装置のひとつに、金属製熱交換器(レキュペレータ)付きのラジアントチューブ燃焼システムがある。ラジアントチューブと呼ばれる耐熱鋳鋼製の管内でバーナーを燃焼させることで、O2分子を含む燃焼排ガスを炉内雰囲気に混入させずに燃焼加熱を行うものである。また排気側に設置した金属製熱交換器で発生した排ガス顕熱を回収し、燃焼空気を予熱することで燃焼効率を高め、省エネに寄与することを特徴とする。当社も従来からこの金属製熱交換器を標準的に採用しており、熱交換器を設置していないバーナーを基準とした省エネ率は約23%である。

 対して、新型省エネ燃焼システムDINCS®の開発コンセプトは以下の3点である。

①リジェネと同等の省エネ性能

②メンテナンス性に優れたシンプルな構成

③従来バーナーシステムとの高い互換性

 リジェネが既存の数ある燃焼システムの中でも最も優れた省エネ性能を誇ることは周知の事実である。DINCS®開発コンセプトのひとつは、これに匹敵する省エネ性能を達成することであった。また、リジェネの欠点である複雑な機械構造および保守管理の手間・コストを解消するために、従来バーナーシステム同等のシンプルな構成を目指した。さらに、既設炉のユーザーが容易にDINCS®を導入できるようにするために、従来バーナーシステムとの互換性を十分に考慮して商品化を進めた。

 DINCS®の構成要素はバーナー、高放射材、および高効率熱交換器の3つに大別される。従来のバーナー(金属製熱交換器)システム構成からの変更点は熱交換器の形状と高放射材の追加に留め、シンプルなシステム構成を継承している。またバーナーについては、従来のものを流用できるよう配慮した。

 DINCS®構成要素の一つである高放射材の特徴は、輻射率の高い炭化ケイ素を素材として採用したことである。この高放射材をラジアントチューブバーナーの排気側に設置することで、排ガス顕熱は高放射材を介してチューブ側へ放射熱伝達され、従来システムが系外へ捨てていた排ガス顕熱を効率的に炉内へ還元することが可能となる。また、炭化ケイ素は高い熱衝撃性も有しているため、バーナーの点火・消化による急激な温度変化があっても破損のリスクは小さく、変形・消耗によるメンテナンスもほとんど必要としない。

 また、もう一つのDINCS®構成要素である高効率熱交換器は、従来型金属製熱交換器に代えて高放射材のさらに下流(排気)側に設置され、排ガスと燃焼空気の熱交換により排ガス顕熱を回収するものである。材質は、高放射材と同じく炭化ケイ素であり、炭化ケイ素が持つ高い熱伝導率と3Dプリンティング技術で実現した複雑な三重らせん構造によりコンパクトながら高効率な熱交換を可能としている。また高放射材と同様、メンテナンスをほとんど必要としない。

 2015年のDINCS®初回採用実績において、従来バーナーシステムからDINCS®に更新することで燃料原単位10.2%削減という大きな省エネ効果を確認することが出来た。また2021年8月現在までに、当社製の新設炉・既設炉合せて700式に上る納入実績を積み重ね、熱処理炉の省エネに大きく貢献してきた。

 これまでに当社が販売した熱処理炉に装着される従来バーナーシステムは5,000式以上を数え、従来型金属製熱交換器からDINCS®へ更新することによるCO₂排出削減の貢献余地は大きい。さらに、今般、当社が所有するDINCS®研究用の実験設備を改造して、当社製以外のバーナーにDINCS®を装着して省エネ効果を評価できるようになった。これにより、国内外の様々なメーカーが販売する熱処理炉にDINCS®を適合させることが実現すれば、貢献余地の一層の拡大が期待される。これらの取り組みによって、当社はDINCS®を熱処理業界全体に普及拡大、ひいてはCO₂排出削減の社会的要請に応えるという壮大なチャレンジをここに宣言する。

  

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