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セメントキルン排ガスに適したCO2回収技術の開発

太平洋セメント株式会社

概要

セメントの製造は1,450℃という高温での化学反応を経ることから、多量の熱源が必要であり、主に化石エネルギーが消費されている。また、この反応工程では、主たる原料である石灰石(CaCO3)が分解して、酸化カルシウム(CaO)を経由し、他の原料成分と反応してセメントクリンカを生成することから、同様にCO2を放出しており、従って、製造工程全体では、多量のCO2が発生している。地球環境負荷低減の観点から、このようなCO2の排出を低減する技術の開発のため、実証試験を開始した。当社では、CO2の吸収性能に優れたアミン系吸収剤を用いた、いわゆる化学吸収法での回収に注目し、2019年1月に当社の藤原工場(三重県いなべ市)に小型CO2実証設備(20kg-CO2/日)を設置。セメント製造プラントへの適用が可能かを検証するため、実際のセメントキルン排ガス(以下キルン排ガス)を用いて実証を行っている。化学吸収法は国内では火力発電所や清掃工場などで導入された実績はあるが、セメントキルンの排ガスを対象とするのは、国内で初めての実証である。

説明

今回の実証試験においては、アミン吸収剤を用いた化学吸収法により、セメント製造工程からのCO2の回収技術の開発を行っているが、セメント製造工程におけるCO2の回収は、化学吸収法で既に実例のある火力発電所や清掃工場からのCO2の回収とは、以下の点において異なる。

1) キルン排ガスのCO2濃度が火力発電所等(12%程度)と比して高い(20%程度)
2) 一般的に、CO2の吸収剤であるアミンは、対象ガス中の酸性成分(SOx、NOx、HCl等)の影響によりCO2の吸収性能が劣化するといわれている。これら酸性成分が、セメント製造工程では、他の排出源とは異なる
3) その他の排ガス微量成分の種類および濃度

これらの相違点が、実証試験機でのCO2回収性能に及ぼす影響、ならびに長期運転に伴うシステム全体の性能を評価することを目的として、本実証試験を実施している。
本実証では、当社藤原工場のNo.5キルンの排ガスを対象としている。選定理由としては、リサイクル原燃料の使用率が高く、日本特有のキルン排ガスが得られやすいこと、また、排ガスの集塵システムに集塵効率の優れたバグフィルターを用いておりCO2分離回収実証試験装置へのダストの影響が少ないことなどが挙げられる。キルン排ガスの一部を煙道からCO2分離回収プラントに導入し、ガス・液体のサンプリング及び分析と共に、プラントの運転データを収集し、プラントから排出されるガスは煙道へ戻している。

これまでに実証試験で得られた知見は、以下のとおり。
1) 化学吸収法を用いて排ガスからCO2を分離し、高い濃度で回収可能である
2) 1週間連続運転において、安定して20~25kg/日のCO2が回収可能である
3) 排ガス成分の影響は実証試験での検討を継続中である

今後のCO2回収の実用化に向けて、実証設備のスケールアップも考慮した上で、キルン排ガスからのCO2回収の実証試験に取り組むことにより、脱炭素社会へのチャレンジに取り組む。

補足情報

本試験は環境省の「環境配慮型CCS実証事業」の一部として実施している。

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